学校に向かわず反対方向へ歩き出しましたが、行くところなどありません。
それでも『学校へ行かない』と決めた自分は、すれ違う子供達の視線を気にしながらも学校から遠ざかるように歩みを進めました。
『戻って来たのはいいけど、これからどうすればよいのだろう・・・』
延々と歩いているわけにもいかず、とにかく何処かへ行かなければならないのです。
子供が外で一日中時間を潰す場所などあるはずもなく、帰れる場所は家しかありません。
そこで自分の出した答えは、親が共働きだったので『家に誰もいなくなったら家に帰る』ということでした。
すぐにでも帰りたいけれど、とりあえず親が出社するまではなんとか時間を潰さなければならない・・・
自分の足は自然といつもの遊び場になっている家の近くにある設備屋さんの資材置場に向かいました。
そこの資材置場はとても広く、場所によっては家の様子を伺うこともできるのです。
資材置き場はそれほど人の出入りが多いわけでもなく、隠れるには最高の場所でした。
人に見つからないよう資材の影に隠れながら家の様子を伺います。
8:30頃にパートの母親が自転車に乗って会社へ向かうのを確認すると、近所の人に見つからないことを祈りながら走って家に戻りました。
家に入っても心臓のドキドキが暫く止まないほどの緊張感でしたが、誰にも見つかることのない安心感に包まれ安堵しました。
『学校で嫌な思いをしなくても良い』と思うと、心が軽くなり幸せな気持ちに包まれます。
当時は今と違いゲームやスマホなどなく、我が家ではビデオデッキさえもなかったので、暇を潰すにはテレビを見るか本を読むくらいしかできません。
しかし家に誰もいない時間というのは普段は味わうことができなかったので、とても心地良かったのを覚えています。
特に何をするでもなくゴロゴロしていましたが、あることが頭をよぎりました。
それは、職場が家に近い母親が昼食を食べるために家に帰ってくることです。
まずは居ることがバレないよう自分の靴を玄関から自分の部屋に持っていき、居間には自分の形跡を残さないよう余計な物を置き忘れていないかを確認してから自分の部屋に戻ります。
そして12時を少し過ぎると『ガチャン!』と自転車のスタンドを立てる音がして母親が帰ってきました。
部屋にいた自分でしたが『もし、母親が部屋に上がってきたらどうしよう』と物凄く怖くなってきたのです。
万が一部屋に来たことを想定して、自分の部屋にある収納の中に身を潜めます。
変な物音を出すこともできないので2階に上がってこないことを願い、真っ暗な収納の中でただただ黙って隠れていました。
学校で嫌な思いをすることと比べれば、なんの苦痛もありませんでした。
30分ほどすると昼食を済ました母親が再び会社へ向かうために家を出ていきます。
収納の暗闇から部屋に戻ると目を開けられないほどの眩しさです。
自分のベッドの上に寝ころんで、眩しさが治まるのをユックリと待ちました。
ベッドの上で、また一人きりになった安心感と嬉しさが込み上げてきましたが
『自分は何をやっているんだろう・・・』
という不安感が急に襲ってくるのでした。
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